かをる

立ち込むる深き川霧
目は霧りて見ゆるものなく聞こゆるは瀬音のかぎり
たゞ衣かたしきの夜も更くるまゝ
いづれ心も世を離れて聖へとならまほしとふ願ひすむ山

風そばへ聞こえ来たるは空薫や
いと懐かしき夜語りの簾こえては思ほゆる
なほ覚えゐる世の匂ひならざるまでにあやしき香、そのかうばしや
ありと見て手にはとられず見ればまたかげろふのごと消え絶ゆる
 
朝な夕なに渡し守、そのさしかへる棹ゆゑに
袖は雫にひちつ濡れいづれはくちて果つるごと
心ならずもあはれをしながめらるゝにつく/゙\と時雨るゝものと
身さへ浮く瀬に
 
藤衣、色のかはらぬ袖をば露の宿りにて世をうしかはの橋ぞかなしき
橋なくばかたみにこふる舟は形代 あはれむはなほもかたみの袖のかたしき








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