樹海の境界/仏足石歌 |
初めてのプールを思ひ出してゐる ずつと昔に 泳いでゐたのに 泳げてゐたのに 吹く風にはしやいで笑つてゐる さうさ、今から野生が また目を醒ます また目を開ける ひと言の輪郭、そしてひと言の輪郭は月 あるやうでなく ないやうである やがてとふいつだか判らない風が渡る海峡 どこへゆかうか いつ墜ちようか 永遠のいまの途中で立ち止まる 天気雨なら 傘いらないよ 濡れたいんだよ 空つぽのコップを大事にくるむ手がもう知りだした 月の啼き声 陽の震へ声 繰り返す昼と夜との交差点 横断歩道に 拒まれてゐる 招かれてゐる 発見はひとつの通過証明書 ぼくらは無数の 境界のうへ 樹海の中へ 脊髄がまだ反逆をやめなくて わたしはわたしの 母親になる 子どもにもなる 例へれば否定のあとの空にさへ風は寄せ来る なぞりゆくやう 育てゆくやう 揃はない爪のカタチを通り越しわたくしは見る 吹雪の原野を 真空の音を 足元に縦横無尽の地下茎を 進化のレールは 遡るもの 流されるもの 公式といふ名のまやかし 幻影にしばられてゐる 俗物の熱、聖者の理想 握りしめるナイフの先よ映し出せ 過去と未来が 交はる今と、食ひ違ふ明日を 日捲りのカレンダーにも似た不安 生き方なんて デジタルぢやなく、アナログぢやなく 「It's」それが何かはわたしが決めながら、決められないよ 何であらうと 何でなくても 絡み合ふシナプスの芽よ、蔓になり世界を覆ふ 大気のやうに 時間のやうに 経験はすべてPTSDといふ名の祝福 霧雨の日も、そよ風の日も わたくしが溢れてしまはないやうに砂を築けば 沙漠の真昼 みづたまりの夜 割り切れる このかすかなる哀しみを証としよう 成熟だとか、進化だとかの |
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